アイスランドは「火と氷の国」と表現されますが、
この洞窟はまさにその表現を体現したような場所です。
アイスランドには縦にプレート境界線が走っていて、その一帯は全て溶岩の台地が広がっています。
その北部に位置する大きなカルデラ湖、ミーバトンの近くにある、およそ3500年前に形成された洞窟がLofthellirです。
自分では行くことができないので、小さなツアーに参加しました。
通常は十分に雪が溶けた6月ごろからスタートするのですが、今年は暖冬だったため、5月から開始されていました。こんなことは初めてだそうです。
地球上の寒いところでは、影響が目に見えやすいですね。
自分では行くことができない、というのは、ガイドの方がいないとその洞窟がどこにあるのかがわからないというのが1つ、わかったところで普通の車ではそこまでたどり着けないというのがもう1つ、洞窟の中をどう進んだら良いのかがわからないというのがもう1つ、洞窟の中の氷への配慮の仕方を知らないというのがもう1つです。
参加者はミーバトンのインフォメーションセンターで集合しました。
宿泊していたアクレイリからミーバトンに来るまでの間は吹雪で、たいへんなドライブでした。
インフォメーションセンターの中には、どうやってミーバトンができたか、ミーバトンとその周辺の生態系などがかわいらしいイラストで説明されたパネルがありました。
時間になったらガイドのお兄さんが陽気にやってきました。彼の車に乗って洞窟に向かいます。
洞窟に行くために乗ったのは、Hammerという会社の車です。
ガイドさんと母いわく、軍隊の車のような性能を持っていて、どんなところでも走れるそうです。
インフォメーションセンターから離れてすぐのところに、普通の車だとエンストしてしまいそうな小さな池があったのですが、それはHammerのその車しか通れないようにわざと作ったものだそうです。
この洞窟は地質学的にとても重要なものなので、一般の人が知らずにうっかり行ってしまわないようにするための罠だそうです。
とっても原始的で、もっと違うものを作っても良さそうなのですが、ガイドさんいわく、それが一番効果的だったそうです。
ガイドのアントンさんは、ミーバトンで生まれ育って、小さいころから研究者たちと一緒に、しょっちゅうこの洞窟に入っていたそうです。
「昨年新しい家を買ったんだけど、その家よりこの洞窟の方によく来てるよ!」
と、冗談交じりに話していました。
この洞窟以外のガイドも務めていらして、ツアーに参加したほかの人から、
「この洞窟に入れないシーズン以外には何か仕事はあるの?」
と質問されたら、
「アイスランドでガイドをやっていたら、一年中仕事には困らないよ!」
と返していました。
アントンさんはフォトグラファーでもあります。彼が撮影した写真は観光ガイドの冊子やウェブサイト、さらにはホテルの部屋や廊下のアートとしても使われているそうです。
この日は吹雪だったので、ゆっくりゆっくり、タイヤの圧を変えながら進みました。
まわりの景色はひたすら白くて、私にはどこに向かっているのか全然わかりません。
しばらくしてから、突然白いコンテナが見えました。
そこに全ての荷物を置いて、靴を長靴に履き替えて、ヘッドライトとヘルメットを着けて、さらに1kmほど歩きます。その道の植生は脆弱なので、1列になってアントンさんの後をついて行くように言われました。
また一面真っ白な道なきマグマ地帯をただ歩いていたので、どこへ向かっているのか全然わかりません。
サングラスを忘れてしまって、まぶしくて目も細くしないといけませんでした。
比較的すぐ、突然大きな穴がありました。
人が入るための階段がかろうじてあります。ここが洞窟の入り口です。
下へ降りると、風が無く、音も無く、まぶしくなくて、外よりも少し暖かいように感じました。
入り口には大きな氷柱。
洞窟の中は1列でしか進めないので、「アヒルの家族になりましょう」と言われました。
前の人をよく見て、どうやって進むかを理解します。
前を行く人は後ろの人のサポートをします。どのようにして進むかを教えてあげます。後ろの人が写真を撮るために止まっていたら、前の人も止まって待つシステムです。
いくつか進むのが難しいところがあるそうで、アントンさんが前もってどう進むかを説明してくれました。
そんなにアクロバティックなものだとは想像していなかったので、びっくりしました!
中の氷を汚さないために、水たまりで靴底をお掃除してから中へ入ります。
洞窟の中に入ると、もう真っ暗です。明かりはみんなのヘッドライトしかありません。
最初からとても急でとても狭い上り坂がありました。
ロープを持って、腹ばいで全身を使って這いのぼるしかありません。
アントンさんにコツを教えてもらいながら、そのアドバイスに忠実に、狭くて勾配のある氷の道をゆっくり進んでいきます。
(後ろを行く母が撮影。背が低くて、こういうときは便利だなと思いました。)
中は0度くらいに保たれていますが、空気が極めて純粋なので白い息は全く出ません。
長靴で氷の上にずっといるので、足の裏だけが冷たいです。
上から垂れている氷柱以上に、下から生えている氷の柱には特別な注意を払います。
この子たちは、年月をかけてとってもゆっくり育つそうで、人の温かい手が触れるとすぐに何年分も背が縮んでしまうからです。
アントンさんは小さなころからここへきているので、「僕が13歳だったころはこのくらいだったよ。そのくらいゆっくり成長するんだ。」と言っていましたが、みんなアントンさんの今の年齢を聞きそびれていました。
進むことと前後の人や内部環境への配慮に集中していましたが、進むたびに感動的な光景が広がっていました。
氷と溶岩に挟まれている、という、言葉で言っても表現しきれない不思議な体験です。
(Geo Travel より。アントンさんの撮影。光るライトが私の頭です。)
(天井の溶岩)
最後には、巨大な空間が待っていました。
ガイドや研究者の方々は、ここを大聖堂と呼んでいるそうです。
天井は高くドーム状になっていて、並び立つ氷の柱はオルガンのようなので、本当に聖堂みたいです。写真はとてもではないけれど、うまく撮れませんでした。
ここには記念撮影スポットがあります。
(Geo Travelより。ヘッドライトのバンドの色とジャケットの色がマッチしていたので、
ウェブサイトで採用されていたカップル。アントンさんの撮影。)
みんなのヘッドライトに照らされて、プロのアントンさんが撮ってくれます。
最後の最後に、この空間でみんなのヘッドライトを消して、暗闇と沈黙の時間が設けられました。目を開けても閉じても、まったく何も変わりません。
周囲の雑音も全くありません。忘れられない数分でした。
また同じ道を戻ると、久しぶりに太陽の光が目に入りました。とても嬉しかったです。
風、光、音がよく感じられます。
アントンさんがふと時間をたずねると、なんと、私たちは3時間以上も洞窟の中にいたことがわかりました。
通常はもっと短いそうで、アントンさんは、 “What happened!?”と、驚いていました。
みんな、時を忘れてしまっていたみたいです。
朝の吹雪がおさまって、晴れてきそうでした。
冷え切ってしまったので、温泉に入ります。